TNGパトレイバー『首都決戦』もとい『GRAY GHOST』サントラの感想 その2+本編の感想

※ネタバレ注意

※『感想』です

その1はこれ↓

hanta1117.hatenablog.com

 

見えない戦闘ヘリ東京に現る

 劇中後半、『決起』が始動した後の活劇BGMも全て、『突入 вторжение』に負けず劣らずな、状況に合わせてシームレスに変化するロングスコアだ。Tr.12『決起1はこれまた違う意味で振り切れた曲である。どう振り切れているのかを簡潔に言うとすれば「これはおかしい」の一言で表せよう。

 ストリングスを主体とした『ごっごっごっごっ』をバックに、東京へ『決起』に向かうグレイゴースト。灰原の台詞は『状況を開始する』。劇パト2を見たならこれから何が起こるのか予想できるだろう。そしてこの後画面が切り替わり、二課棟の外にヘリの音が響いているのを聴いて、全てを察するだろう。破壊されていく二課棟の絵が切り替わると、例の『グレイゴーストのフレーズ』をバックに、グレイゴーストが廃墟となった二課棟の上空を飛びまわっている。視点の切り替えと同調する曲展開が美しいと感じるが、問題はここからである。シゲさんががっくりと肩を落とすところでシリアス調の曲は変貌、べんべべん、といったシゲさん悲しみのテーマが流れ始めるのだ。しかし、悲しみに暮れている場合じゃない!とシートに隠されたイングラムの姿が顕わになる!と共に勇ましい曲調に変わったかと思うと――警視庁の、会議室の暗がりへ絵が切り替わると共に、曲はやはり展開と同調するかのように抑えられる。この勇ましく盛り上がる旋律から急激に静まっていく瞬間が川井さんの音楽ではたまらないポイントなのだが――それにしてもこの曲の展開、心情表現から状況に至るまで一つに繋げてしまう事に関しては伝統芸能級だろう。別の曲と曲が繋がった感じでなく、これは一つの曲の一部だと抵抗なく受け入れられる。この繋ぎは最後の活劇BGM『第二小隊始動』でも効果的に感じられるだろう。

 

 曲自体が待ってました、な『ごっごっごっごっ』から始まる様は劇パト2の『Outbreak』。ストリングスの区切りからなる『ごっごっごっごっ』というのは川井さんの様々な曲に使われているが、ヘリや戦闘機――とにかく、重たい何かが飛ぶ情景と本当によく一致している気がする。『ごっ』単体は確かに重く、すぐに落ちてしまいそうなものだが、『ごっ』と『ごっ』の間にあるその空白ちゃんが絶妙で、『ごっ』が落ちてしまわないような作用をもたらしているのだろう。(何を言っているのかわからんでしょう)この空白が長ければ浮いて沈む浮いて沈むという、足の動きのような、つまり行進曲のようになってしまうだろうし、逆に短くても浮いた先の地面を感じさせず、逆に『ごっ』の存在する先を独立した平面のように感じてしまうため、浮いているとは思えないだろう。(首の据わっていない人間が語っている事だと思ってください)

 さて、画面は会議室の暗がりである。会議室で後藤田隊長のドラマにおける一番の盛り上がりがあるが、音楽は抑えめになっているため、場の緊張と裏での事態の進行というものが、淡々さと共に感じられる。ただただ連続する沈み込むようなバスドラがとてもクール。この特徴的な、沈みこむようなバスドラの音はいつから使われるようになったのだろうか?ここで途中から控えめに流れる『グレイゴーストのフレーズ』らしき物が、バスドラの連続と相まって、絵だけでは絶対に推察できない、近づきつつあるグレイゴーストの足音に思えてくる。そして――沈み込むようなバスドラの音がすっと消え、ヘリのローター音と軋む様な音と不穏な音の上昇が極まったところで、見えない襲撃に包まれる会議室。そして視線が切り替わった時、キーが高くアレンジされた『グレイゴーストのフレーズ』が開けた東京の上空に響き渡っている!この開放感と高揚感!『グレイゴーストのフレーズ』というのは不思議な旋律である。特徴的である包み込むようなコーラスは、覆いかぶさる恐怖を彷彿とさせるのに、不思議な高揚感を得ることすらある。『決起1』でグレイゴーストが首都を蹂躙するシーンでのこのフレーズは高揚感に重きを置いたアレンジがなされていて、ますますグレイゴーストから攻撃されている感覚と、グレイゴーストに乗って首都を蹂躙する感覚、心持次第でどちらの側にもつく事ができる。

 

インビジブル・モンスター対陸自ヘリ 世紀の大決斗

 Tr.13『決起2首都を背景にして戦うグレイゴーストとコブラに当てられたBGM。事態の『転』を表すような上がり下がりを繰り返す旋律のウネリが例によって『ごっごっごっ』をベースに流れる。それがコーラスと共に広がって収束したところですっと止む。それから大事な会話シーンをまたぎ、再び浮き上がる『ごっごっ』から展開する、はち切れんばかりの重たさがグレイゴーストを後方から狙うコブラを執拗なほどに見せつける。派手な交わしの無い緊張さには、以外にもこの激しいとも言える旋律の重たさがよく似合うように感じられる。曲が高まり、攻撃!という瞬間でグレイゴーストが消え、都庁舎の上空から現れたところで最初流れていた旋律のウネリが再び、『グレイゴーストのフレーズ』で余りにも使われたコーラスにより、グレイゴーストの意味を纏いつつ再び現れ、それから一気にコブラは食われてしまう。このグレイゴーストが都庁舎の上空から現れる場面も、絵と音楽の一致による快さを感じるシーンであると思う。この直後のコーラスのウネリは、非日常の勃発する東京の風景に完全に同調し、染み渡っている。

 Tr.15『第二小隊始動』いつまでやってんだ早くイングラムを出せ!が限界にまで溜まったのを一気に解き放つような勇ましいデッキアップが行わる。そこからの音楽はひたすら、ただただ緊迫さと勝利に至るまで(そう、正直なところこの安心感に満ちたイントロには少し抵抗があった。勿論すぐに緊張さにシフトするから良いのだが、前までの緊迫感に満ちたBGMと併せて、この曲で急にスイッチが切り替わるような感じは、どうにももうワンクッション欲しい、という感じを覚えた)『決起2』での旋律のウネリが盛り上げの主な担当。明が音響センサーを作動させ、ヘリの位置を耳を頼りに探すシーンでは、しっとりとしたシンセがヘリの音に興味を向けさせる。このしっとりとしたシンセをきっかけに、しばらくは明の、対象への集中が描かれる――など、やはり状況の一瞬一瞬に合わせた旋律を経て、最後の盛り上がりへと移行するのだ。バスドラを基調として淡々と盛り上がっていたのにスネアが組み合わさり、結末への着陸を予感させた所で、情景はスローになり、シンセに包まれる。そうして一気に高まった所で、長らくこのサントラの傍にあったバスドラと風切り音が沈黙の代わりに間を作り――そこから先は一気に解放、上昇。鳥肌が立たない訳がない。川井さんの手掛けた某他映画の某長尺音楽のようになるとわかっていても、あんなこんな風に締まるとわかっていても、新しい、少し予想を裏切った終着点に誘われる。不思議である。何か別の期待や思惑を生む前に戦いの終わりを的確に語るTr.15『別離と再会』へと移行したのも良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一つ漏れた物があった。Tr.07『追想の河』である。情緒系で個人的TNGシリーズのトップ。旋律を大事にしながらも、漂う空気感はパト2と同じく東京の風景との適合性を大事にしている様に感じる。だが、当てられた絵と高畑の『天の声』に私は距離を感じた。勿論、それを比喩するものは散りばめられているのだろう。しかし、何か突きつけられるものが欲しかった。(勿論押井節の到来に、舞い上がったのも確かだ。それにしても、である)

 どうしてもパト2のあのシーンと比較してしまうのは仕方ない事だと思うのだが、あのシーンにおいては絵も、台詞も、音楽も、全てのモノが同調していて、初めて見た時の私にも分からないなりに、何かを突きつけていった。灰原零やテロリストの希薄さも、後半の盛り上がりを何か後引かれる事なく盛り上がれるという点で良く作用したが、そうではなく何かを突き付けて欲しかった。勿論この映画を見た後歩み寄って考える事はできる。しかしただただこの映画を見て残る事とは何だろうか。何か心に引っ掛かるものを作るためには、人間のストーリーが必要だと思う。しかし、この映画だけでそれが成り立つものはあまり前に出ていないか、抽象的な物だった。90分版では言わずもがな、特車二課の中でのやり取りが大幅に補われたDC版ですら、直接的なダイアログが足りない様に思えた。特に押井氏も言っていた『女性同士の戦い』という点で。明が密かに遊馬に印象を残していった灰原に対抗心を燃やし、彼女のバスケットボールでシュートを繰り返していたというのは分かるが、それも『そうじゃないのかな』と察せられる程度で、本当にそうなのかは分からないのだ。その構図を何か決定づける様な対話が見たかった。

 しかし、この映画は日本という慣れ親しんだ環境での、実際の都市でのリアルな状況を描いたという点でものすごいのだ。東京上空であんな事が起これば、という緊迫感を美しいBGMと共にリアルに体感できる。また、灰原零やグレイゴーストという存在も、象徴という点ではある種の現代の問題を、ぼんやりとではあるが感じられる。見えない戦闘ヘリは見えない脅威と変換できるだろう。即ち、サイバー戦争という形の新たな戦争。見えないので脅威として未だうまく人々に伝わっていない、知ろうと思っても専門用語ばかりで何が何やらよくわからない(それは私の不勉強のことです)この見えない戦争の象徴、またはドローンなど。

 そして、戦うために大義を持たない、そして他人に印象を残さず成長したテロリスト、灰原零という存在はそのサイバー戦争やドローンにより、特別な意思を持たない私達でも簡単にテロの加害者になりうると見る事ができる。グレイゴーストの旋律については先に述べたばかりだが、それと繋げる事も可能だろう。何か重い物を背負っている様で、遊び半分でもある、明確でない『革命者』の形。そう考えれば、灰原零に明確な物語を持たせなかったのは適当だったのだろうか?だとすれば、灰原零という強く触れてはいけない、しかし存在感を持たせなければならないキャラクターを形作るのはとても難しい事だっただろう。

 なんのブログだったかという感じではあるが、ともあれ『首都決戦/GRAY GHOST』のサントラは情緒と美しさと高揚に満ちた、気持ちを高めてくれるCDである。しかし、それは映画を見た人にとっての話だ。映画を見ていない方がこのサントラを手に取ったらば、きっと『なんじゃこりゃ』と思うだろう。本編を見る事で、映画のパーツとしての音楽を楽しんで欲しい。

 それにしても、グレイゴーストが光学迷彩を張る時のSEが素晴らしい。怪獣の鳴き声のような高い音が心地良く、鳥の鳴き声と共に何度も音楽との同調を示している。ドラマシリーズのサントラ入りしなかった曲と併せて、iTunesなどの市場に並んではくれないだろうか……

 

 

 

 

 

耳コピしたものです。良ければ


【パトレイバー首都決戦MV】カーシャその他が突入する時の曲耳コピした - YouTube